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げんだいのさじゅつ

現代の詐術

坂口 安吾

「個性 第一巻第一号」思索社、1947(昭和22)年12月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,471 字 · 25 页

青空文庫

私はタバコは欲しかったが、同情にすがるだけの勇気がない。悪意ならまだ貰ってやるという気持になれるが、人情にはついて行けない。ヤミ値なら、私の日頃用いるところだけれども、尤も当時はヤミのタバコを買うほどの金もなかった。

このタバコ屋の老人に関する限り、私への同情は極めて純粋なものだった。私がどこの馬の骨だか、住所も名前も職業も知りやせぬ。ただ病人らしさと貧乏らしさに同情してくれたゞけの、恩を売って為にするというようなところの何もない性質のものだった。

ヤミ値なら応じうる、為にするつもりならそれに応えることによって取引しうる。純粋な同情にはこっちがハニカミ、恐縮するばかり、一般に文士などという私らの仲間はみんなそんなものじゃないかと思われる。

私が親切な気持に応じなかったものだから、その後、風呂へ行く老人などにたまに会うことがあると、私をジロリと見て顔をそむける。まことに、つらい。

私はこういう素朴な人情は知性的にハッキリ処理することが大切だと考える。人情や愛情は小出しにすべきものじゃない。全我的なもので、そのモノと共に全我を賭けるものでなければならぬ。