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たまつきばのいちぐう
球突場の一隅
豊島 与志雄
「新小説」1916(大正5)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,111 字 · 29 页
いやな奴だ。」
「あれで中々うまいことをやってるんだね。」
「どうして?」
「どうしてってそりゃあ君……。」と云いながら村上は笑ってしまった。
それは或る綺麗に晴れた晩だった。袷の肌には外の空気が少し冷やかすぎる位であった。松井は村上に誘われて、ぶらりぶらりと当もなく散歩に出かけた。
彼等は明るい電車通りを選って歩いた。村上は心に何かありそうな顔色をしていた。それが松井にも伝った。孰れも球を突こうとも云い出さないでただ歩いた。然し歩いているうちに歩くことが無意味に馬鹿々々しく思えて来た。
「麦酒でも飲もうか。」と村上が云った。
「よかろう。」
二人はさる西洋料理屋の二階に上った。そしてすぐ右手の狭い室にはいった。室には他に客はなかった。食卓の上に只一つ蘇鉄の鉢がのっていて、それが向うの柱鏡に映っていた。
二人は料理を食って麦酒を飲んだ。それから洋酒も一二杯口にした。そして何だか互に視線を避けるような心地で居た。
「ちっとも飲まないね。」
「なにこれからだよ。」と云って村上は洋盃をとり上げた。
「酔って球を突いたら面白いだろうね。」
「そう今晩また出かけようかね。」