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たまつきばのいちぐう
球突場の一隅
豊島 与志雄
「新小説」1916(大正5)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,111 字 · 29 页
松井はただじっと村上の顔を見返しただけで、何とも云わなかった。
村上はそのまま視線をそらして室の中をぐるりと見廻したが、急に立ち上った。
「おたかさん一つやろうか。」
「ええお願いしましょう。先刻の仇討ちですよ。」
「なにいつも返り討ちにきまっているじゃないか。」
「へえ、今のうちにたんと大きい口をきいていらっしゃいよ。」
女は立って来て布で球を拭いた。そしてそれを並べながら松井の方に声をかけた。
「松井さん、あちらでこちらの方と如何です。」
「今日はもう疲れちゃった。」と松井は投げるように云った。
其処にお上さんが奥から茶を汲んで出て来た。もう可なりのお婆さんである。いつも髪を小さく束ねて眉を剃っている。妙に人の顔をじろじろ見る風があった。
「どうかなすったんですか。」と上さんはすぐに会話を奪ってしまった。
「え!」と松井は怪訝な顔をした。
「大層沈んでいらっしゃるじゃありませんか。」
「そうですかね。」
「おやおや。まあお熱いところでも召上れ。」
上さんはこう揶揄うように云いながら彼に茶をすすめた。そして向うに黙っているも一人の学生に声をかけた。
「林さん、こちらと一ついらっしゃい。