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たまつきばのいちぐう

球突場の一隅

豊島 与志雄

「新小説」1916(大正5)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,111 字 · 29 页

青空文庫

然し林の妙にだだっ広い額を見ているとわけもなく腹立たしくなってきた。それでも彼は終りに綺麗に球を突き切ってしまった。

「此度は林さんといらっしゃいよ。……林さん松井さんとお一つどうか。」とおたかが云った。

「さあ、」と云い乍ら松井は突棒を捨てて椅子に腰を下した。

けれども林は立って来て球を並べながら云った。

「一つお願いしましょう。」

松井も仕方なしに立ち上った。

おたかは火鉢に火を入れて、それを球台の下に置いた。それからゲーム台の処に坐って、じっと林を見た。彼女の眼からある微笑みが出て、それが林の顔を笑ました。

松井は林がやって来てから急に一種の屈辱を感じた。皆が林と影でそっと意を通じていること、林が主人顔に振舞っていること、それが松井の鋭い神経に触れたのである。そして突棒を取って林に向いながら彼は強い憎悪を身内に感じた。

松井はなるべく敵に譲る後球が悪くなるようにした。自分で万一を僥倖しないで、敵に数を取らせない工夫をした。そして第一回は美事に勝った。第二回も勝利を得た。第三回にも同じ方法を講じた。然し林は松井の残した悪球を平気で突いた。顔の筋肉一つ動かさなかった。