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せいあらば

生あらば

豊島 与志雄

「文章世界」1917(大正6)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,046 字 · 47 页

青空文庫

「如何です?」と彼は眼鏡を外して壮助の顔を窺った。

「少しはいいようですが……。」

「そうですか。……何時も見舞って下すってお差支えではありませんか。」

「なに私の方はいいんです。」

「いや出勤のお身体だからそうお隙でもありますまい。然しあなたが暫くお出でにならないと病人が大変淋しがるものですから。」

羽島さんはその時何やら少し小首を傾けて考えていたが、「一寸」と云って自分から先に立ち上った。

居間のすぐ横に台所と並んで薄暗い三畳の室があった。二人は火の気の無いそのうす寒い室の入口に身を屈めた。片隅には看護婦の着物や持ち物が置いてあった。

「病人が非常に耳が近いものですから。」と羽島さんは云い訳のように云った。

「そうでしょう。そして何か御用ですか。」

「用というほどのことではありませんが、あなたに少し伺ってみようと思っていたことがありますので。」

羽島さんの云う所は斯うであった――

医者の薬は少しもその効が見えない。咳に苦しむ時、熱に苦しむ時、不眠に悩む時、その度毎に医者にもそう云うけれど、彼は少しもその方の薬を盛らないらしい。病人のそういう悩みが静まるのはただ自然に衰弱しきってゆく結果らしく思わるる。