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せいあらば
生あらば
豊島 与志雄
「文章世界」1917(大正6)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,046 字 · 47 页
そして壮助ははらはらと涙を落とした。
「どうしたの?」
そう云って光子の眼がまた彼の方に向けられた。
「…………」
光子は軽く微笑んだ。ただあるがままの安らかな生命がそのうちに在った。
「彼女に生あらば……、」壮助はそう心の中に叫んだ。「凡てが救わるるであろう。」
然しながら一瞬間の後には、荒凉たる頽廃の感情が彼を待っていた。息づまり杜絶されたような自分の生活が彼の眼の前に在った。
運命が、あらゆるものが、何れかへ、転り出さんとしていた。一度動き出したらもう引止めることは出来そうになかった。凡てが険しい分岐点に立っていた。
夜が暗く、そして凡てのものに不安な予感と鈍い光りとが在った。羽島さんの家政の奥に窺い寄らんとする眼があった。老婆の金を狙っている眼があった。更にまたそれらを担いながら、何物かに引きずられるような重苦しい勤労があった。
翌日壮助は自分の机にもたれながら、困憊のうちにうとうとと眠るともなく夢幻の境を辿っている時、突然川部の来訪に驚かされた。
川部の興奮したような熱のある顔に接した時、壮助は急に飛び上りたくなった。
「君、あんな手紙を出して許してくれ。