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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
「黒潮」1917(大正6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 57 页
彼の眼はいつも若々しく輝いていた。頬には紅い血が流れていた。凡てにぶつかってゆく力が彼のうちに充ちていた。
田原さんは重夫の方へちらと一瞥を与えて、それから静かに答えた。
「判断は理解の後に来るものだ。然しそんな抽象的な議論はお前達のような若い者に譲るとしよう。だがお前にはまだ人間というものがはっきり分ってはいない。……何だったかね、そうそう徳蔵のことだ。妻を失ったことが徳蔵にどんな打撃を与えたか、お前には分るまい。お前も知ってる通り、徳蔵はこの家から出て後ずっと砲兵工廠に働いていた。彼の妻は家の中で内職をしていた。そして貧しい中に良助とみよ子とを育てていたんだ。そのうちに突然妻が死んだ。良助は今の通り家に来ることになった。徳蔵はその時から酒を飲み出したんだ。今日も彼は云っていた。『人間には心の中に火を燃すことが大事だ。私等のような者は酒で火を燃すより外仕方がない。』そのことをよく考えてごらん。今分らなくても、お前にもいつかそのことがはっきり分る時が来る。」
重夫は珍らしい父の雄弁にじっと耳を傾けていたが、やがて云った。
「私にも大体は分ります。然しただ分っただけで、その先をどうしようということがなくちゃ、何にもならないじゃありませんか。