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でんえんのまぼろし

田園の幻

豊島 与志雄

「世界評論」1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,053 字 · 17 页

青空文庫

川崎あたりの工場か酒場かに働いていた娘の花子を呼び戻してから、居酒屋をも兼業した。長男夫婦は別居して、律気に農業をやっている。

その居酒屋に、私は何度か立ち寄って、土間の汚い木卓で飲んだ。花子がお燗をしてくれ、時にはお酌をしてくれる。

丸みがかった顔に、眼が大きく目立つ、色の白い女である。眼が目立つといっても、奥深い色を湛えてるとか、視線が鋭いとかではなく、ただ円く大きく見開かれてるだけだ。見ようによっては、人をくった擦れっからしらしいところもあるようだし、また、案外初心らしいところもあるようだし、また、どこか釘が一本足りない白痴らしいところもあるようで、見当のつかない人柄である。だが、いずれにしても興味の持てる女ではない。それが突然、秘密の荷物というのを持ちこんで来たのだから、私は聊か呆れた。後でそれとなく聞き合せてみると、彼女には村で三人ばかりの若者と情交があるらしい。三好屋の二階には、深夜、けちな賭博の集りなどもあるらしいとのこと。

「そろそろ、出かけましょうか。」

宗吉が投網を肩にかけ、宗太郎が龕燈をさげている。私は竹編みの魚籠を持つ役だ。