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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
菜の花が放つ生温い香気が、彼を噎せ返らせそうにした。
五日目の午後、学校から帰ってすぐにそこへ駈けつけた時、彼はとうとう、昨日までの三個の卵の代りに、飛び立つ事ができないでしきりに鳴いている三羽の小さな雛を見た。彼は、あまりの嬉しさに両の目から涙が流れ出たほどであった。手で触ってみると、赤々した肌が柔かくて暖かった。
彼はそれを籠の中へ入れて育てた。水といろいろの食物とを与えた。青菜を擦ってこしらえた食物を彼等は一等お甘味そうにして食べた。彼が指先へそれを着けて籠の中へ突込むと、腕白そうな大きな眼を見開いて、黄色い縁のある三角の口を大きく開けて、争うてそれを食べるのであった。
ところが、一週間と経たないうちに、お尻の所がいちように青く腫れ出して、腐れ出して、とうとう三羽とも可哀相にころりと倒れてしまった。
下男の敬作(そうそう、あの頃はそういう名の男が居たっけ。)は、
「糞づまりでさ」と事も無げに云った。彼は、自分の無分別のために飛んだ気の毒な事をしてしまったものだと、心から悲しく思った。……そこで、彼は、その三つの死骸を一つの彩色のしてある玩具箱の中へ入れて、例の大きな柳の樹の根元へ持って行って、丁寧に葬ってやった。