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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

……六年目に会うのだよ。どんなに大きく、可愛らしくなっている事だか。……」そこへ、自分の荷を運んで車夫が入って来た。色の褪せた粗末な革鞄をほとんど投げ出すように彼の足許へ置くと、我慢がしきれないと云ったように急いで顔や手に流れている汗を手拭でふいた。

取次ぎに出て来た一人の少女(それが小間使で、お志保というのであるという事を彼は知っているはずはなかった。)が慎ましやかに坐って自分を仰ぎ見ているのに気がつくと、彼は「そうだった。」と思った。「どなたさまでいらっしゃいますか。……どちらからお出になりましたので?」少女は黙ってはいるが、その顔の表情が確かにそう云っているのが解かった。彼はあわてて、少しまご附いて、意味もなく、

「あ、私は……。」こう云った。が、ひどく手持不沙汰なのでそのまゝ口を噤んでしまった。ちょうどその時、

「まあ、兄さんだわ。……兄さん!……ほら、やっぱり妾が当ってよ。」こう云って妹が元気よく走り出して来てくれなかったら、彼は、飛んでもない、重苦しい翻訳劇の白のような調子で、不恰好な挨拶を云い出したかも知れなかったのである。

祖母、母、今年十二歳になる姪の律子などが珍らしがって我慢なくそこへどやどやとやって来た。