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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
「どうなるのですの?」
「そんなに気をもむ事なんか少っとも無いんですよ。お前はもういいんだから、あっちへ行っておいで。」
「でも、わたし……。」
「どうしたの? お前、母さんがいいようにして上げるのだから、お前なんかが心配などするのではありませんよ。ね、房子。――それから、兄さんが目を覚ましたら此室へ来てくれるようにって云っておくれ。誰にも知れないように、そっと云うのですよ。」
房子は、これでやっと安心して母のそばを離れた。
庸介が、母の前へ坐った時、母はすぐに口を開いた。何の修飾するところもなく、きわめて直接に、
「お前は、何か至急にお金の入用な事がおありなのでしょう。……それはいくらあれば良いのだか云いなさい。」こう云うのであった。この簡潔な母の一言は彼を動かすに十分であった。そして、そこには何等の説明もなしに彼をしてたちまちに、
「八十円ほど……。」と答えしめるだけな恩愛の情が漲っていた。
「ほんとにそれだけで良いのかい。……あとでまた何か云い出したって、妾はもう知りませんよ。それですっかりよくなるのだね、ほんとに?」
「はい。」
こう、はっきりと答えた時に庸介の眼から涙がぽろりと落ちた。