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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
やがて、彼の心が、幽かに、どこか底の方で叫び出した。
「俺は真に零にも劣っている、俺は無にも値しないであろう。」
彼は泣きたくも泣き出されないような思いを抱きながら、黙然として山を下りて来た。
十
何か為よう。みんなが何かしらしている。何にもしないでいるのは自分だけだ。自分も何事をか企てねばならぬ。何事をか初めねばならぬ。今日、すぐ今からでもそれに取掛らなければならぬ。そうしないではいられないような心持ちが続いた。
「しかし、その前に俺は俺自身が何であるかを知らねばならぬ。そして俺に何ができるかを知らねばならぬ。そしてその後に傍目もふらず突進しよう。」庸介はこう考えた。
「一生の仕事にとりかかるのだ! そんなに慌ててはいけない。前途を測るに当って、一通り過去を振り返ってみるのも強ちに無益な業ではないかも知れない。自分がこれまでに実際何をしたか、何をなし得たか、またどんな事の方へ主として傾いて行ったであろうかを明らかに思い起してみよう……そうだ。俺は今のこの静かな境遇を利用して自分の自叙伝を書いてみよう。あるいはその中に、自分の前途の暗示が見られないとも限らない。