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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

ほんとに、……何といういまいましい、何という憎々しい……」

房子はどうしても黙ってはいなかった。

昼間はついうっかり忘れているが、夜になると、彼女はいつも深く部屋の中にとじ籠って、そして烈しい憤りに心をいらいらさせていた。恐ろしい大蛇のような者から附け覘われてでもいるかのように気味悪るがって、矢も盾もなく不安でたまらなかった。

「そんな者の手にほんのちょっとでも触られる位なら、その前に死んだ方がましだ!」こんなに思った。

……一人の大きな荒くれた男と悪戦苦闘を続けているような夢をよく見た。……短刀をもってとうとう敵者を突き殺してその上になおも、黒い毛のもじゃもじゃ生えたその胸のあたりを飽くまでも切りつけていたような夢から覚めて、びっしょり身体中に流れている汗を拭うために起き出た事さえ一二度あった。

房子は、とうとう庸介に迫って響察署へ匿名の手紙を書かせた。しかし、何日まで待っても、むろん何の甲斐もなかった。

そのうちに何時か房子も馴れて来たのでか、次第に初めのような気のもみようもしなくなった。

幾カ月か経った。

ある夕の事、それは日が暮れて間もなくであった。