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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
何か考えようとしてもどうしてもそれを長く続けていられないんだもの。何か思おうとしてもちっとも甘く思う事ができやしない。こんな風だと、かえってだんだんわたしの頭が悪くなってゆくばかりだわ。……わたし、この上にまた、気でも狂うような事でもあったらどうしよう。それでなくてさえ、『あんな事』があった身だのに。……何という情ない事になったのだろう。」と云って、気をもんでは泣き出した。
屋外には峻酷な冬が、日ごと夜ごと暴れ狂っていた。世界はすべて、いやが上にも降り積もる深雪の下に圧しつぶされて死んだようになっていた。
ある夜、その夜も屋外はひどい吹雪であった。ちょうど真夜中とも思われる頃、房子が彼女の部屋の中で急にけたたましい声で、
「……早く、早く、誰か起きて下さい。……それ! そこへ逃げて行く。」こんな事を呼び出した。
隣りの部屋に寝ていた両親は驚いて、寝巻のままで走って行った。房子は土のような顔色をして、闇の中に怪しげにぼんやり立っていた。どうしたのかと聞いてみると、今、自分がふと目を覚ましてみると、自分の床の中に一人の男が入っていたのに気がついた、そしてそれはいつから入っていたのだか自分にもわからなかった。