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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
「早稲田文学」1914(大正3)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页
そこにはいつの間にかすでに若草が青々と芽を出していた。長々湿っていた樹木の皮からほかほかと水蒸気がたち上った。どこかの隅から、かの四月や五月やが人知れずにこにこして覗いているような気勢さえ感ぜられるのであった。
房子のその後の経過はことのほか良好であった。老医師の家では彼女の退院の日を指折り数えて待っていた。帰って来たらしばらく温泉場へでもやって置いたら良かろう。そしてそれに附き添うてゆくのは庸介が良かろう、と、そんな事まで相談されていた。
ある日の午後、庸介が、自分の部屋でしきりに何か書き物をしているところへ、そーっとお志保が入って来た。彼女のようすにはどこか落ち附かないおどおどした処があった。彼の側近くへ坐ったまま伏目になって黙っていた。そして時々幽かな吐息を洩らしたりした。庸介は、お母さんにでも気づかれたのではないか、そして何か云われたのではないか、と思って咄嗟の間に酷く心がまごついた。が、そんな素振りは見せずに、膝の上へきちんと組んでいたお志保の手を執って軽くそれを握ってやった。彼女は素直に彼のするがままにさせていたが、やはり黙り込んでいた。