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いなかいしのこ

田舎医師の子

相馬 泰三

「早稲田文学」1914(大正3)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,947 字 · 76 页

青空文庫

ガラス戸の内と外との顔はわずかに二尺とは離れていなかったであろう。それほど庸介は窓の近くに立っていた。自分の吐き出す熱い息が、冷たいガラスの面を白く曇らすのに気がついて、初めてそっと身を引いた。

「……あれが母親だろうか。あんないたいけな、あんな可愛らしい娘が、何でお母さんなどと呼ばれる事ができよう。」彼はそう思った。

「彼女はどう思っているだろう。あんな子供に何が考えられるものか。ほんとに、――どんなふうに思っているのだろう。」また、こうも思った。

彼は再びそーっと池を廻り、小松の林をぬけて家の前の方へ出て来た。

「子が生れるのだ。あのお腹の中にいるのだ。それがおれの子だ。――あのお志保が母親で、この俺が父親なのだ。」

庸介は、今はっきりと心の中で、こう云うのであった。静かに歩きまわった。いろいろの思いが限りなく湧いて来た。「生れて来る子供は男かしら、それとも女かしら、……女の子ならばどうぞお志保によく似てくれ。あれと同じように美しく可愛らしくあってくれ。もしまた、男であったら、……それにしても俺に似てはいけない。」

「否、否、そんな事はどっちだっていい。