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こうしゅうぐんないようかいじけんとりしらべほうこく

甲州郡内妖怪事件取り調べ報告

井上 円了

「東京朝日新聞」1894(明治27)年5月8、9、11、12日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,934 字 · 18 页

青空文庫

これ、あに奇怪にあらずや。第三に、その声、よく他人の心中を洞察し、これを言い当つるに、あやまちなしという。これまた、奇怪といわざるべからず。第四に、その声、よく他人の一身上もしくは一家の上に、まさに来たらんとする吉凶禍福を予言すという。これまた、奇怪といわざるべからず。第五に、その声、よく他人の疾病に特効ある奇薬を指示す。実に奇怪千万というべし。これを要するに、以上の事実によりて考うるに、その怪物には予言、察心の力あること明らかなり。

つぎに、行為の上において第一の怪事というべきは、あるときその家の一室に掛けたりし機糸が、いつの間にか、みごとに断ちきられたることこれなり。第二は、あるとき人の機を織りてありしに、なにごともなくしてその機糸が一時に断ちきられしことこれなり。第三は、あるとき機糸の枠に巻きてありしを、あたかも歯にて噛み切りたるがごとくに、切りみだしたりしことあり。かく機糸を断たれしことは、一回のみにあらず数回ありしかど、だれもかつてその形体を見しことなく、あたかも無形的死霊あるいは生霊のごときものありて、暗中になすもののごとし。ただし、その怪声が予言もしくは察心をなすは、別に大いなる害とも見えざれど、その毎度機糸を断たるるに至りては、たちまち多少の損失を受くるをもって、一家最もこの怪事に困却せり