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こうしゅうちんぶたい

甲州鎮撫隊

国枝 史郎

「講談倶楽部」1938(昭和13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,891 字 · 28 页

青空文庫

「何うとは?」

「嫌いだとか、好きだとか?」

「怖い」

「怖い? まあ」

「親切な人とは思うが……何んとなく怖い!……それにわしにはお千代というものがあるのだから……」

「お切れなされたくせに」

「強いられたからじゃ。……心では……」

「心では?」

「女房と思っておる。……それでもうお力殿には今後……」

「来ないように」

「済まぬが……」

「妾は参ります。……貴郎様はお嫌いなさいましても、妾は、あなた様が好きでございますから。……それがお力という女の性でございます」

(おや?)とお力は聞耳を立てた。

池へ落ちている滝の音が、その音色を変えたからであった。

(誰かが滝に打たれているようだよ)

然う、単調に聞えていた水音が、時々滞って聞えるのであった。

(可笑しいねえ)

良人を慕って

お力が、総司の為の薬を貰って、浅草今戸の、松本良順の邸を出たのは、それから数日後の、午後のことであった。門の外に、八重桜の老木があって、ふっくりとした総のような花を揉付けるようにつけていた。お力がその下まで来た時、

「松本良順先生のお邸はこちらでございましょうか」

という、女の声が聞えた。見れば、自分の前に、旅姿の娘が立っていた。