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おとこぎらい

男ぎらい

豊島 与志雄

「苦楽」1949(昭和24)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,878 字 · 18 页

青空文庫

姐さんは寝床のあげおろしを自分でしますから、私は助かるのですが、あとで私がお掃除をする時でさえ、室の空気はいやらしい。そのもとはみんな、井上さんの男くささにあるのです。

井上さんは寝る時でも、足を洗ったことがありません。靴下をぬいで、そのまま寝床にはいります。靴下が新らしい時はよいけれど、少し汚れてきて、おまけに雨の日などは、湿っぽくむれて、くさい臭いがしています。その臭いは、足にもうつってるに違いありません。水虫が出来たようだと、指先でかいたことがあります。その足のまま寝床にはいってしまうのです。他国の人はどうか知りませんけれど、日本人は、寝る時ぐらいは足を洗ったらどんなものでしょう。靴の革の臭い、靴下のむれた臭い、不潔ではありませんか。

男のひとの皮膚も、だいたい革に似ています。だから、絹の手袋よりも、毛糸の手袋よりも革の手袋が似合うのです。動物的です。毛が多すぎます。髭、胸も、脛も、あちこちに毛がたくさんあります。井上さんときたら、鼻毛が濃く、耳の穴にまで毛が生えています。それに気がついてから私は、ひと頃、うちの店や電車の中などで、男の耳の穴をそっと盗み見たことがあります。