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いしつしょうくばいさよう
異質触媒作用
寺田 寅彦
「文芸」1933(昭和8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,360 字 · 13 页
という自由自在の「如意棒」を振廻わして、人間に手の届かぬ空間の好きなところへ探りを入れ引掻き廻わし得られるところにある。このいたずらを利用したものの例としては三角測量の際に遠方の三角点から光の信号を送るへリオトロープがあり、その他色々な光束が色々の信号に使われるのは周知のことである。自分の子供の時分に屋内の井戸の暗い水底に薬鑵が沈んだのを二枚の鏡を使って日光を井底に送り、易々と引上げに成功したこともあった。
日本橋橋畔のへリオトロープは単なる子供のいたずらであったであろうが、同じようなのでただの悪戯ではない場合があり得る。例えば某ビルディングの某会社のある窓の内に執務している甲某にその友人乙某が百メートルも先の街上から何かしらある信号を送るということがあり得るであろう。「今夜一処にビールを飲もう」というくらいの罪のない信号である場合もあろうが、もう少したちの悪い場合も色々あり得る。そうした場合に、同室にいる課長殿が、これは誰かに対する信号だということに気が付いたとしても、その信号を受けているのが室内のどの男だかということが分かりにくい。そこにこの信号の長所がある訳である。