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くじょしょうろく

痀女抄録

矢田 津世子

「改造」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,578 字 · 65 页

青空文庫

当時、加福の門弟は銀三と連之助の二人だけであった。十六の齢から七年間仕込まれて、未だに遅々としている銀三に較べて、連之助は、弟子入りしてからまだ二年にも満たなかったが、その技の進歩は人眼を瞠らせる。ただ、師匠だけが、いつになってもその技を良しとしない。糸ぐせまでが師匠そっくりだったから、帯安の番頭などは、これを見付けものにして、内証で、師匠の名を用いた仕事を頼み込んだりした。

この連之助と銀三に挟まれた位置で、寿女は枠台にむかっていたが、憚からず冗談口のきけるのは銀三とばかりで、連之助へは声をかけることも稀れである。連之助のほうでも、寿女や銀三へは構いつけなかった。これは内気寡黙のゆえともみえる。けれども同じ連之助が、いかにも、うちやわらいだ愛想顔をみせる時がある。師匠や帯安の番頭の前に出たときだけであった。

寿女は何がなし、この連之助へ挑みかかりたいような気持ちにさせられる。何がなし、その仕事を打負かしてやりたい気持ちにさせられる。そして心を凝らして、ひたむきに励んだ。

寿女は糸を縒り合わせることが器用だったから、よく、銀三の分も手伝ってやった。