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びょうちゅうき
病中記
寺田 寅彦
1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,795 字 · 8 页
病室までの道は予想に反して長くどこをどう通っているのかじきに分らなくなってしまった。ついこの間通りかかった時病室の端にある斜面から寝台車が引き上げられ病室の窓から大勢の人が覗いた時の光景を思いだした。車が止まって寝台がかき上げられた。廊下を通っている時はもう少し静かにやってもらいたいと思った。かついで行く人々は目的地の近付いたために無意識に急いでいるのだと思って黙っていた。幌が取り除かれると同時に狭い入口を通って病室にかき込まれた時いちばんに目についたのは灰色の壁であった。不愉快な灰色の高い壁は上の端で曲面を形作って天井につながっていた。天井の真中に白く塗った空気抜きの窓がただ一つあるだけであった。なんだか「壙穴」という文字がすぐに頭に浮んだ。(大正九年一月)