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とざんはぼうけんなり

登山は冒険なり

河東 碧梧桐

「山 第一卷第三號」梓書房、1934(昭和9)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,375 字 · 9 页

青空文庫

槍ヶ岳の坊主小屋あたりまで、人間の体臭、いや糞臭で一杯だというじゃありませんか。ロック・ウォーキング、垂直の岩壁を散歩するのでなければ、現代のアルピニストではないそうですね。

まあ前時代? と言っていいでしょう。我々時代の登山は、一歩役小角に近づき、仙人修業の一端に触れた、むしろ珍妙と言ってもいいステージの想い出、手ぐれば尽きない糸のように。

初めて白山登山を志した時、地理も余り究めず、ただ一番の捷径というので、前日其の山麓の尾添で一泊した。後できくと、それは白山の裏道で、尾添道という最も峻険な難路だった。ともかく、山にかかったとッつきの胸突き八丁、これは手強いの感を与えた。が、やっと眺望の開けた、約千米突も登った頃、そこらそこらに残雪も見え出した。早昼の結び飯を食って、茶のかわりに、雪を掻いて食ったりした。

あそこに黒百合がありますよ、で連れの一人が、そこらの二株三株を土と共に掘りあげ、いい土産が出来ました、と言っている間に、今まで風もなく晴れ上がっていた、今日一日を保証していた空が、一陣の腥い風と共に変に翳った。見る見るうちに、脚の迅い雲が、向うの谷からこの谷へ疾駆して来る。