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しろいあさ

白い朝

豊島 与志雄

――「正夫の童話」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,920 字 · 35 页

青空文庫

その水とも霧ともつかない水気が、室の中まで押しこんできます。

そこへまた、電話でした。

「分りませんと云っといて下さい。」と駒井さんは強い調子で云いました。

「でも、本村町の旦那様でございますが……。」

本村町というのは、芝田さんの弟の康平さんです。それをきくと、駒井さんはびっくりしたようで、あわてて出てゆきました。

正夫は一人で雨を眺め、稲光りを眺めました。初め躍りたってた心が、大きな力に押し拉がれて、しいんと静まり返り、その上を、遠い雷鳴の音がころがってゆきます。

駒井さんはなかなか戻ってきません。何をしてるのでしょう。

長い時間がたったようです。

稲光りは遠のき、雨はいくらかやわらぎました。縁側に屈みこんでる正夫の着物は、かるく湿気をふくんでいます。

駒井さんがはいってきて、不服そうに見向きもしない正夫の肩を、いきなり捉えました。

「ねえ、今晩、夜明かしして……遊びましょうよ。泊っていっても、いいんでしょう。お宅へ……中根のおばさまへ、お電話しといたわ。」

正夫は、雨音も消えるようなしいんとした気持でした。

「さっき、度々電話がかかったでしょう、あの時、御主人はってきくから、分らないと答えて、どなたですかと、何度きいても、名前を云わないで、いきなり、ああ奥さんですか、奥さんですね、どうぞよろしく……そして