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しろいあさ

白い朝

豊島 与志雄

――「正夫の童話」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,920 字 · 35 页

青空文庫

ところが、門をはいってから、少し足をゆるめ、小首をかしげて、あたりを見廻しました。そしてふと、檜葉の茂みに黒猫が一匹のぼっているのが、目につきました。

おや! といった様子で、正夫は黒猫をながめました。黒猫はじっとしていましたが、やがて、頭を振り、口に手をあてました。何かの合図のようです。そうだ、黒猫ではありません。チビです。小さなおかしな奴で、小悪魔なんかと呼ばれてる奴です。

――なあんだ、チビか。

正夫はそう云いすてて、軽蔑したように、そのまま向きをかえ、内玄関の方へやって行きました。

正夫は茶の間の縁側に腰をかけて、煙草をふかしました。今日は、銘仙の袂の着物をきています。中学生にしては、銘仙の袂の着物は少し早すぎますが、それは中根のおばさんがきせてくれたのです。煙草は少し生意気ですが、袂の着物のてまえ、いたずらにふかしてみてるのです。

それでも、なんだか落着きませんでした。今日、珍らしいことには、芝田さんから電話で、遊びに来いとのことでしたが、来てみると、芝田さんは不在なんです。書生の丹野もいません。そんな時、いつもすぐ出迎えてくれる駒井菊子さんも、奥の室にひっこんでいます。