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しろいあさ

白い朝

豊島 与志雄

――「正夫の童話」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,920 字 · 35 页

青空文庫

「まあ芝田さんぐらいが、君のいい相手だよ。」

云いすてて、正夫は歩きだしました。ふと口に出た今の言葉が、はっきり頭に戻ってきました。そうだ、いけないのは、芝田さんなんかではなく、チビなんです。ただ皮相な明朗さだけで、中身はなんにもないのです。中身のなんにもないことが、そのまま明朗さになってるのです。

――もうこれから、あんな奴は……。

正夫はそう呟いて、ちょっと淋しくなり、拳を握りしめました。

仄白い霧が、いつはれるともなく、まだ一面にたたえています。その中を、正夫は歩き廻りました。ふと、「白き朝、赤き夕、そは巡礼者の日和なり、」という諺が頭に浮かびます。白き朝とは、このような朝のことでしょうか。そして今日はきっと晴天でしょう。巡礼に出かけてよい天気でしょう。

「正夫君……。」と弱々しく呼びかける声がしました。

「まだいたのか。」と正夫は云いました。「表の木の上にでものぼっておれよ。今日は、きっと面白いことがあるよ。」

正夫は朗かに笑って、また歩きだしました。

向うの窓のところに、ぼんやり、仄白い霧のなかから、更に仄白いものが、浮出しています。駒井さんの顔です。