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しろいかや

白い蚊帳

宮本 百合子

「中央公論」1927(昭和2)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,800 字 · 18 页

青空文庫

ざらざらした白っぽい巌の破片に混って硫黄が道傍で凝固していた。烈しい力で地層を掻きられたように、平らな部分、土や草のあるところなど目の届く限り見えず、来た方を振りかえると、左右の丘陵の巓に、僅か数本の躑躅が遅い春の花をつけているばかりだ。森としている。硫黄の香が益々強い。

自然の圧迫を受け、黙って足早に歩きながら、なほ子は悲しい歓ばしい感動を覚えた。ここさえも、なほ子が嘗て覚えている光景とはいつかすっかり異っていた。道の工合も違う。大きな地辷りがあったと見え、巌と泥とごたまぜに崩れ落ちている丘陵も違う。もっと奥の温泉への登り口がどこかその辺の篠原の間についていた筈だが、見当もつかない。――いくら見ても見当のつかないのが悲しく歓ばしく、なほ子は、度々その方を見ては鋭い感情を味わった。暗い一生の思い出と結びついたものと思っていた自然が、こうも新しいものとなって眼前にある!

飛ぶものは雲ばかりなり石の上    芭 蕉

石の碑が見えるところまで来ると、詮吉は真白い手巾を出して鼻を覆うた。

「ここより、却って来るまでの方が臭かったわ」

「そう?……いや臭い臭い」