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しろいみち
白い道
徳永 直
「新潮」1948(昭和23)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,169 字 · 36 页
「ハーイ、わしがおふくろは専売局の便所掃除でござります。どうせ身分がちごうけん、考えもちがいましょうたい」
高わらいしながら、そのくせポロポロ涙をこぼしている小野をみると、学生たちも黙ってしまう。それで、そのつぎにくる瞬間をおそれて三吉が、小野の腕をささえてたちあがると、
「なにをいうか、労働者の感情が、きさまらにわかると思うとるかッ」
すごい顔色になって、肩ごしに灰皿をつかんでなげようとする。津田と二人で、それを止めて外へでると、小野はこんどは三吉にくってかかる。――な、青井さ、きみァボルな? え、何故だまっとるな?――。それからとつぜん、三吉の腕にもたれてシクシク泣きだす――。ハーイ、わしがおふくろは専売局の便所掃除でござります。ハーイ。――
小野が上京したのはそれから間もなくで、三吉にもだまって発ってしまったのであった。小野のうちは父親がなく、専売局の便所掃除をしていた母親は――まるで不具もんみたい、二十七にもなって、嬶ァもらえんと――といってこぼしていた。三吉と同じように、小野も失業していたが、上京してしまった一ばん大きな原因は「ボル」が侵入してきたからであった。