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はくとうのうた

白塔の歌

豊島 与志雄

――近代伝説――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,450 字 · 43 页

青空文庫

「条件はただ、絶対に秘密を守るということだけです。分っていましょうね。」

「承知しております。」

それだけの応対で、あとはとりとめもないこと、軽い文学の話や果物の話などをしました。

彼女は方福山の招宴の時と同じように髪を結び、髪飾りをつけ、ただ着物は同じ淡青色ながら、絹が繻子に変ってるだけでした。そして内心に何か堅い決意を秘めて、それを頼りに表面温和にしてるらしいのが、見て取られました。高賓如はその内心の決意みたようなものを探りあてた時、同時に、彼女が懐に何かを、恐らくは小さな拳銃でも、忍ばしているのに気付きました。然し素知らぬ風をしていました。

彼は説明していいました。「若い女の胸は、手を触れずにそっとしておいてやるべきだ。少くともそれが僕の立前だ。」

そして三十分ばかりしますと、呂将軍は急務を片附けて隙になりました。高賓如は柳秋雲の先刻からの来着を知らせました。呂将軍はちらと険しい眼色をしましたが、すぐに顔色を和らげて長い髭を撫でました。

呂将軍は平服に着換え、私室に柳秋雲を迎えました。中央の卓子には夜食の用意がしてあり、片隅の卓子には地図や書類がのっており、長椅子のそばの小卓には阿片喫煙の道具が置いてありました。