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しらねのふもと
白峰の麓
大下 藤次郎
「みずゑ」1910(明治43)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,238 字 · 45 页
六日には漸く晴れた。結束して奈良田の方へ往った。白雲の去来烈しく、少しく寒い朝であった。
早川渓谷の秋は、いまは真盛りで、いたるところの草木の色は美しい。細い細い道を辿ってゆくと、時として杉の林の小暗きところに出る、時として眩しいような紅葉の明るいところに出る、宿から半道も来た頃、崖崩れのために道は絶えた。
見ると四、五十間の広さに、大石小石のナダレをなしている。幾百丈の上より幾十丈の渓底まで、八十度位い、殆ど直立同様の傾きで、あたかも滝のように、そして僅かの振動にも、石はカラカラと落ちて下りゆくほど勢いは加わり、初めの一つは忽ち十となり百となり千となりて、個々の発する恐しき叫びと共に、絶えず渓を埋めようとしている。五間おきには、小屋くらいある大きな岩が、今にも転がろうと、ただ一突の指先を待っているかのような姿勢で渓を覗いている。何という恐しい光景であろう。
下草の磨れているところを、少し斜めに歩を移すと、向うの崖に通ずる一条の道がたえだえに見られる。崩れたところを、僅かの足がかりを求めて踏固めたのであろう。湯島から奈良田へゆく人、奈良田から湯島へ来る人は、この道を急いで通るのであろう。