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はくじつむ

白日夢

豊島 与志雄

「新小説」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,672 字 · 23 页

青空文庫

と云い捨てながら、前後の考えもなく表へ飛び出してしまった。

私は酔もさめて、よく眺めてみると、自分の家と隣りの家とを間違えて、のめのめはいっていったのだった。そして長火鉢の前に坐り込んだばかりでなく、恐らく細君に違いないあの女へ向って、何という挨拶をしたのだろう!……私は足音を偸んで、自分の家の前を通り過ぎ、暫くしてからまた戻ってき、門を開いて閉めるにも、玄関の格子を開いて閉めるにも、出来るだけ音のしないように注意して、なおその上に息までこらして、茶の間へはいっていった。針仕事していた妻と、何かやはり繕いものをしていた女中とが、私の気配を感じてか、ひょいと振向いて私の方を見た。

「まあ、あなたは……。」

妻がそういうのを黙って見返した。

「どうしてそうこっそり帰っていらしたの?」

それだけのことだったか、と私は幾分安堵の思いをして、帽子やマントを脱ぎ捨てて其処に坐った。そして気を落付けるために茶を飲んだ。

「あら、お羽織は?」

喫驚して自分を顧みると、羽織を着けていなかった。

「しまった!」と独りでに声が出てしまった。

「どうなすったの?」

「忘れてきた。」