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はくちゅうむ

白昼夢

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1925(大正14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,690 字 · 8 页

青空文庫

演説者は、青っぽいくすんだ色のセルに、黄色の角帯をキチンと締めた、風采のよい、見た所相当教養もありそうな四十男であった。鬘の様に綺麗に光らせた頭髪の下に、中高の薤形の青ざめた顔、細い眼、立派な口髭で隈どった真赤な脣、その脣が不作法につばきを飛ばしてバクバク動いているのだ。汗をかいた高い鼻、そして、着物の裾からは、砂埃にまみれた跣足の足が覗いていた。

「……俺はどんなに俺の女房を愛していたか」

演説は今や高調に達しているらしく見えた。男は無量の感慨を罩めてこういったまま、暫く見物達の顔から顔を見廻していたが、やがて、自問に答える様に続けた。

「殺す程愛していたのだ!」

「……悲しい哉、あの女は浮気者だった」

ドッと見物の間に笑い声が起ったので、其次の「いつ余所の男とくッつくかも知れなかった」という言葉は危く聞き洩す所だった。

「いや、もうとっくにくッついていたかも知れないのだ」

そこで又、前にもました高笑いが起った。

「俺は心配で心配で」彼はそういって歌舞伎役者の様に首を振って「商売も手につかなんだ。俺は毎晩寝床の中で女房に頼んだ。手を合せて頼んだ」笑声「どうか誓って呉れ。