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はくもくれん

白木蓮

豊島 与志雄

「芸術」1947(昭和22)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,039 字 · 24 页

青空文庫

。

そのくせ、或はその故か、桃代がやって来ると、私はほっと安心する。こんな所の女にしてはいやに手の太い、すべてが大柄なぱっとした桃代は、その存在で、喜美子をかばいこんでしまうようだ。

桃代は若い妓などを連れて、蜜豆をつっつきに来るのだが、喜美子にやさしい眼差しと言葉を投げかける。白紙に包んだ葡萄糖の大きな塊りを、袂から取り出して彼女に与える。

「これ、なんだか知ってる。」

「あら、こないだも頂いたわ。」

そんな、前のことなどはどうでもいいという風に、桃代はナイフを借りて、小さな一片を切ってやる。

「食べてごらんなさい。うまいわよ。でも、一度にあまり食べると、下痢をするんですって。少しずつ食べるのよ。」

桃代は喜美子だけにしかやらない。それを、若い妓たちも、お上さんも、いつものことと馴れてるらしく、わきから手を出さない。――桃代はなんども葡萄糖の塊りを喜美子に持って来てくれた。

其後、喫茶店カツミを宇山かつはやめて、加津美だけをやるようになると、桃代は葡萄糖の代りに、長唄を喜美子に稽古してやった。喜美子は芸妓になるのではなかったが、一通りの遊芸事は習っていて、桃代が長唄の名取りであるところから、日時をきめず暇に任せて、桃代の方から進んで教えた。