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はくち

白痴

坂口 安吾

「新潮 第四十三巻第六号」1946(昭和21)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,985 字 · 45 页

青空文庫

それがもし真冬でなければ伊沢は強いてこだわらず眠ったかも知れなかったが、特別寒い夜更けで、一人分の寝床を二人に分割しただけでも外気がじかに肌にせまり身体の顫えがとまらぬぐらい冷めたかった。起き上って電燈をつけると、女は戸口のところに襟をかき合せてうずくまっており、まるで逃げ場を失って追いつめられた眼の色をしている。どうしたの、ねむりなさい、と言えば呆気ないほどすぐ頷いて再び寝床にもぐりこんだが、電気を消して一二分もすると、又、同じように起きてしまう。それを寝床へつれもどして心配することはない、私はあなたの身体に手をふれるようなことはしないからと言いきかせると、女は怯えた眼附をして何か言訳じみたことを口の中でブツブツ言っているのであった。そのまま三たび目の電気を消すと、今度は女はすぐ起き上り、押入の戸をあけて中へ這入って内側から戸をしめた。

この執拗なやり方に伊沢は腹を立てた。手荒く押入を開け放してあなたは何を勘違いをしているのですか、あれほど説明もしているのに押入へ這入って戸をしめるなどとは人を侮辱するも甚しい、それほど信用できない家へなぜ逃げこんできたのですか、それは人を愚弄し、私の人格に不当な恥を与え、まるであなたが何か被害者のようではありませんか、茶番もいい加減にしたまえ。