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はくち
白痴
「新潮 第四十三巻第六号」1946(昭和21)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,985 字 · 45 页
けれども爆弾という奴は、落下音こそ小さく低いが、ザアという雨降りの音のようなただ一本の棒をひき、此奴が最後に地軸もろとも引裂くような爆発音を起すのだから、ただ一本の棒にこもった充実した凄味といったら論外で、ズドズドズドと爆発の足が近づく時の絶望的な恐怖ときては額面通りに生きた心持がないのである。おまけに飛行機の高度が高いので、ブンブンという頭上通過の米機の音も至極かすかに何食わぬ風に響いていて、それはまるでよそ見をしている怪物に大きな斧で殴りつけられるようなものだ。攻撃する相手の様子が不確かだから爆音の唸りの変な遠さが、甚だ不安であるところへ、そこからザアと雨降りの棒一本の落下音がのびてくる。爆発を待つまの恐怖、全く此奴は言葉も呼吸も思念もとまる。愈々今度はお陀仏だという絶望が発狂寸前の冷たさで生きて光っているだけだ。
伊沢の小屋は幸い四方がアパートだの気違いだの仕立屋などの二階屋でとりかこまれていたので、近隣の家は窓ガラスがわれ屋根の傷んだ家もあったが、彼の小屋のみガラスに罅すらもはいらなかった。ただ豚小屋の前の畑に血だらけの防空頭巾が落ちてきたばかりであった。