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しろばなのあさがお
白花の朝顔
泉 鏡花
「週刊朝日 第二十一ノ十六号(春季特別號)」1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,880 字 · 62 页
「ああ、おいし……茶屋ではな、ご飯かて、針を呑むようどしたえ。ほんに、今でも、ひざのとこ、ぶるぶると震えるわ、菎蒻はんのようどすな。」
もう一口。
「あの、これから場所へいうて、二階の上り口へ出ましたやろ。下に大きな人大勢やよって、ちょっと立留まって覗くようにするとな、ああ、灯が点れかけの暗さが来て、逢魔が時や思うたらな、路之助はんの幟が沢山、しんなり揃う青い中から、大き大き顔が出てな。」
「相撲のだね。」
「違います、女子はんの。」
「…………」
「口をばこないにして。」
と結んだ唇を、おくれ毛が凄く切った、黒い蝶が不意に飛んだように。
「可恐い顔をして睨みはった。それがな、路之助はんのおかみはんえ。」
「路之助?……路之助の……」
立女形、あの花形に、蝶蜂の群衆った中には交らないで、ひとり、束髪の水際立った、この、かげろうの姿ばかりは、独り寝すると思ったのに――
請う、自惚にも、出過ぎるにも、聴くことを許されよ。田舎武士は、でんぐり返って、自分が、石段を熊の上へ転げて落ちる思がした。
「何もな、何も知らんのえ、私路之助はんのは、あんたはん、ようお馴染の――源太はん、帯が弛む――いわはった妓どすの。