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しろばなのあさがお

白花の朝顔

泉 鏡花

「週刊朝日 第二十一ノ十六号(春季特別號)」1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,880 字 · 62 页

青空文庫

唯今も、目に見えて、桜に包まれるようですが、実は、こんな事は、今まで、誰にも片端も饒舌ったことはありませんから、いつも一人で、咲満ちた花の中にいた気だったのですけれども、あなたに。」

著者に、いうのである。

「三月、と口にしますと同時に、ふと気がつくと、彼岸ずっと前で、まだ桜は咲きません。が、それからお絹を連れて行きました、本郷座の芝居が、ちょうど祇園の夜桜、舞台一面の処へぶつかりましたし、続いて上野でも、鶯谷でも、特に観世音の御堂では、この妓と、花片が颯と微酔の頬に当るように、淡い薫さえして、近々と、膝を突合わせたような事がありましたから、色の刺激で、欄干近い、枝も梢も、ほの紅かったのだろうと思われます。

ところで――芝居行です。が、どの道、糸錦の帯で押立よく、羽織はなしに居ずまいも端正としたのを、仕事場の机のわきへ据えた処で、……おなじ年ごろの家内が、糠味噌いじりの、襷をはずして、渋茶を振舞ってみた処で、近所の鮨を取った処で、てんぷら蕎麦にした処で、びん長鮪の魚軒ごときで一銚子といった処で、京から降って来た別嬪の摂待らしくはありません。京では、瓢亭だの、西石垣のちもとだのと、この妓が案内をしてくれたのに対しても、山谷、浜町、しかるべき料理屋へ、晩のご飯という懐中はその時分なし、今もなし、は、は、は、笑っ