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しらふじ
白藤
宮本 百合子
「孝子の俤」1944(昭和19)年12月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,810 字 · 16 页
孝子夫人は、終生自分なりの形でそれをもちつづけた女性であった。この人間としての宝は、しかし、現実のなかでそのもち主たちを決して小さな安住の中にとどめておかないものである。さりとて日本の習俗のなかでは、闊達自在の表現で、その情熱を情熱のなりに発露させることもむずかしい。そのような社会の伝統に生まれた私たち日本の女性が、その情熱の翼さえ、おのずから短くさずけられて、重い日常から高く翔ぶにしては、未だ十分の羽搏きをし得ないという事実も、思い合わされる。
あれやこれやの理由から、孝子夫人の資質を貫く熱い力は、よりひろくひろくと導かれ得ないで、日常身辺のことごとと対人関係の中で敏感にされ、絶えず刺戟され、些事にも渾心を傾けるということにもなったのではなかったろうか。
二昔ほど以前の生活の環境であったらば、夫人の気質は、所謂江戸子の張りある気象と一致して放散されたものだったかもしれない。けれども大正の末、昭和へと生活は全く複雑になり、情熱のよりどころも見やすくはないものとなった。
まことに女らしい天性によって、孝子夫人の情熱の主題は、日常生活の中での人と人との間の愛と信義、心意気と好みとの上にあつめられていたと思うのは誤りだろうか。