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しらふじ
白藤
宮本 百合子
「孝子の俤」1944(昭和19)年12月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,810 字 · 16 页
孝子夫人は、何につけても本当に心のたっぷりさを愛していた方だと思う。自分も心のたけ、ひとも心のたけで尽し合う人間交渉を求められた。だが、遑しくなりまさる営みの間で、孝子夫人のその願いは一度二度ならず傷けられたことと思う。
元来、品川の伯父さんと呼ばれた方が、事業上の熱意のほかにどんな趣味をもって居られたかは知らないが、孝子夫人の母上、現子夫人は、今日高齢にかかわらず、猶読書が唯一のたのしみとなっている方である。兄上の谷口辞三郎氏は、早い頃フランス文学を日本に紹介した方であるし、兄上の一人の河野桐谷氏は、日蓮の研究家、文筆の人として活動された。孝子夫人が文学について趣味の深いことは、血統のおくりものと云えるのかもしれない。
その上に、孝子夫人の生れ合わせが、生活の間に消されてしまわない熱さで人生を求めていたとすれば、文学への好みも、内面にひとかたならぬ、きずなをもっていたわけである。
孝子夫人は率直な方であった。それにもかかわらず、自分の詠まれた短歌、その他については、はにかみ深くて、決してひとに示したり、そういう話題を選ぶことをされなかった。
古田中正彦氏は、文学への愛好が深く、やはり短歌に蘊蓄が浅くない上、著書も持って居られる。