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しらふじ
白藤
宮本 百合子
「孝子の俤」1944(昭和19)年12月発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,810 字 · 16 页
長女の峰子さんも、歌のことでは夫人のよい伴侶らしかった。
私が短歌については知ることが少なかったことも、お話の出なかった一つの原因であろうと思う。
やがて、孝子夫人にとって、多くの忍耐と勇気とを求める闘病の時期がはじまった。新宿の病院にいらっしゃる頃は、思いながらつい折を得なくて、お会いしたのは、田園調布へ移られてからであった。
永年糖尿病をもって居られ、そこから生じた複雑な病症で、経過は困難であった。おうちの方々は実に母さん孝行で、峰子さんなどは、自分の家庭とお母さんの看病と、おどろくばかり献身された。長男の鉄夫さんが花嫁をもらわれ、勝彦さんが出征され、松の茂った丘や玉川へ向う眺望のよい病床も多端であった。
その前ごろから、孝子夫人はラグーザ玉子の絵をいくつか集めて居られた。額のかかっている応接間まで歩いて来られ、ラグーザ玉子が、老年なのに心から絵に没頭していて質素な生活に安らいでいることや、孝子夫人の心持をよろこんで、会心の作をわけたことを快よさそうに語られた。
ラグーザ玉子の画境は、純イタリー風で、やや古典的な確かな技法とともに、こまやかな味、平和な趣の作品が多く、それはこの老婦人画家の心の景物を示すとともに、孝子夫人の求めていられた和らぎにこたえたのであろう。