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しらふじ
白藤
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,822 字 · 16 页
目黒駅近くの閑静な家に、彼女は住んでいました。両親と弟とがありました。戦争前、中日事変中に、兄は召集されて出征していました。
その目黒の家を、草光保治は時々訪れました。母方の縁続きの間柄でありましたし、美代子の兄の耕一とは友人でありました。耕一が出征してからも、美代子とは気安く話が出来ましたし、弟の耕次が高等学校の入学試験をひかえていましたので、その質問にも応じてやりましたし、蓄音器の、いろいろなレコードもありました。
ところが、二つの不幸が美代子を見舞いました。
一つは、兄の戦死の公報でした。乗り込んでいた輸送船が沈められて、彼は赤道附近の太平洋の中に消えたのです。
も一つは、彼女自身の病気でした。初めは単なる感冒とばかり思われていたのが、肋膜炎の症状を呈してき、やがて、可なりの肺浸潤が発見されました。微熱が続き、食慾が衰え、皮膚が美しく透いてきました。そして彼女は自宅で、閑散な日々を送って静養することになりました。しきりに書物を読みたがりましたので、草光保治はいろいろなものを持っていってやりました。それを彼女は甚だゆっくりと読み、読んだあとから忘れてゆくようでした。