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しらがこぞう
白髪小僧
杉山 萠円
「白髪小僧」誠文堂、1922(大正11)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,770 字 · 194 页
この声を聞くと、今まで腰を抜かしていた藻取爺と宇潮は、こいつが何でも香潮と美留藻を殺した化物に違いないと思い詰めましたから、急に元気が出て立ち上りまして――
「これ化物、美留藻も香潮も帰って来ぬぞ」
「大方貴様が喰ったのだろう」
と掴みかからんばかりに睨め付けました。
その声を聞くと又怪物は急に嬉しそうに――
「オオ。そう云う貴方はお父さん、私はその香潮です。そして美留藻はまだ帰らぬと仰しゃるのですか」
と早や声を震わしています。二人は香潮と聞いてハッと驚きましたが、併しこんな化物が香潮などとは思いも寄りませぬから、異口同音に怒鳴り付けました――
「馬鹿な事を云うな。香潮は貴様のような化け物ではない」
「そんな事はありませぬ。私は香潮です。私が香潮です」
と云いながら狼狽て宇潮の傍へ走り寄ろうとしましたが、折から又もや雲の間を洩る月の光りに自分の姿がありありと鏡の中へ映りました。その姿をチラリと見ますと、化物は今度は自分の姿に驚いて、キャッと云うとそのまま眼をまわして、又もや湧き立つ大浪小浪の間に真逆様に落ち込んでしまいました。そうしてあとには只白銀の鏡だけが、ありありと月の光りに輝いて残っておりました。