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ひゃくゆきょう
百喩経
岡本 かの子
「三田文学」1934(昭和9)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,474 字 · 21 页
明るい早春のサンルームで愛の忍堪力の試験。
イエツ教授の娘のマーガレットはこういう実験のプランを可愛ゆいとき色の小脳の襞から揉み出して支度にかかった。――招待状、英国風の朝飯、その朝すこしの風も欲しい。
恋人の三木本は約束の時間にやって来た。オースチンリードで出来合いをすこし直さしたモーニングの突立った肩が黄いろい金鎖草の花房に臆じた挨拶をしながら庭の門を入る。東洋風の鞣革の皮膚、鞣革の手の皮膚。その手がそこで急いで本ものの鞣皮の外套を脱ぐ。
苦学の泥の跳ねあとを棘の舌ですっかり嘗めてしまった猫のような青年紳士は蜘蛛の糸の研究者で内地レントゲン器械製造会社との密約者。
眩しいような白と萌黄の午前服で男を圧迫しながらマーガレットは爪磨きをして二日目の彫刻的な指先で甘える。
「そのトーストを一枚、苺のジャムを塗ってね」
男の忠実に働く手とカフスが六つばかりの銀器に映る。
庭の桜と梨の花が息を詰めて覗く。蒼空を下から持上げようと薔薇色の雲が地平から頭を押し出して見たが重くて駄目。
「こんどは、マルマレードを塗って一枚ね」
承知した男の忠実さとエリザベス朝式の銀器に手とカフスを映すことは前とちっとも変らない。