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ひゃくしょうやのすけのはなし
百姓弥之助の話
中里 介山
01 第一冊 植民地の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页
あれからもう三カ月目になる、あの人達は北支か上海かどちらか知らない、今頃はどうなっているか。
五
百姓弥之助が、どうしてこの武蔵野の殖民地に住んでいるかということを一通り書いて見ると、彼は今年もう五十二歳になったのである、生れは矢張りこの村の一部で、幼少時代はさのみ貧乏というわけではない、まず中農階級の上等の方にいたものであるが、彼の父が失敗続きで非常なる苦境に陥ってその中で七人の兄弟と共に育ったものだから、云うに云われない生活の苦しみを味っている。
だが、弥之助は少年時代から読書が好きでどうかして東京へ出たいと思った、十四の時やっと小学校を終えると無理矢理に東京へ出て、それから有ゆる苦しみをしてとうとうそれ以上の学校へは入ることが出来なかったが、そのうち独力で或る一つの発明をして、それが世間に喧伝されその発明が世界的の発明であるというような意味から彼自身もパテントによって相当の産をなして今はその郷里のこの新館に来ている、まだ隠居という年ではないし、東京にも相当の根拠地を持ってはいるけれども目下の処は斯うして植民地に来ていることが多い。