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ひゃくしょうやのすけのはなし
百姓弥之助の話
中里 介山
01 第一冊 植民地の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页
今度もどうかと思いながら、隣村へ買わせにやった処、一円三十銭ばかりで一挺買って来た、それを使わせて見ると案外の好調子でその後半年の間に何十頭も刈ったが更にひるまない、このところバリカン大当りである。
十八
日支の事変が初まってから当然物価は騰り初めた、然し暴利取締りが相当行届いてるせいか、その割に暴騰までには立到って居ない、特に農産物等はほとんど価格の値上りを見ない、都会の台所では相当に騰って居るかも知れないが、農村の収入としてはほとんどひびいて来ない、ところが、俄然として弥之助の耳元にひびいて来たのは人間の価上りであった。昨年百五十円程度の作男の給料が二百五十円以上にまで飛び上ってしまった、それから昨年四十円の仕込盛りの小供が今年は九十円で他に口があるからと申込んで来た。男の方が約七割、小供の方が十二割以上の価上りである。こういう相場は誰が立てるのか知れないが兎に角それが共通した相場になって居て、それでも新たに頼み出しというのがほとんどない、人間の不足という事が覿面にここへひびいて来た。兎に角支那へ向けて大量の人間が進出して居るその影響がこうも現金にむくって来たのである。