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ひゃくしょうやのすけのはなし

百姓弥之助の話

中里 介山

01 第一冊 植民地の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,621 字 · 99 页

青空文庫

いよいよヨーロッパも再び行く所まで行かなければ、引けない時代が来たと思わしめられない訳には行かない。従ってそれが東洋へ波動して来るのは知れた事である、どうしてもこの世界全体が、行く所へ行かなければ納まらない時代を直感する。

要するに世界の人間が、皆生き度いのである、生きる土地を求め度いのである。生きる土地を求める為に殺し合って行くという時代が到来したのではないか。ドイツでは各種の社交クラブは勿論の事、茶屋小屋の卓のビールのコップの下に敷く紙に迄も、

ドイツには植民地が無い、植民地の無いのは手足が無くて胴だけの人間と同じ事だ、国民は一致協力して軍備を充実し、生産を増加する為に、臥薪嘗胆をしなければならぬ。

という事を書いて示して置くそうである。

奪われたるものはその植民地を取り戻さんとし、持たざるものはその植民地を持たんとし、持てるものはその植民地を擁護しようとし、地上に血みどろの世界を現出して居る。それは百姓弥之助が持つ、僅かに一町歩の植民地問題とは訳が違う。

一町歩の植民王たる弥之助が、昔から植民の文字に多大な魅惑を感じて居たのは、今の世界共通の血みどろな土地要求の叫びとは違っていた。