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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

「せくこたあねえだよ、せくこたあ、……どたばたしたってよ、春が来ねえばさ、花あ咲かねえちゅうこんだ、おちつくだよ」

それから哲学を述べた。

「世の中あすべて参だてば」

肱枕をしてこう云うのである。

「――天地人で参よ、火と水と空気、この参が集まって出来たが参千世界だあ、飯を食うにゃあ膳と茶碗と箸、天にゃあ日と月と星だべさ、人間は冠婚葬、男と女が夫婦になって子がひり出るだあ、作る者がいて売る者がいて買う者がいる、顔にゃあ眼と鼻と口と、……耳はこれあ別だてば、耳なんぞは、こんなものあへえ有るから有るようなもんの、まあそれあ、有れば有るでまあいいけれども、……まあそういったわけのもんだ」

人生すべて「参」という説、これを又四郎は気の出るほど教えこまれた。

「この世にゃあへえ、男が本気になって怒るようなこたあ、から一つもねえだよ、怒ると腎の臓が草臥れるだ、いちど怒ると時間にして一刻が命を減らすだあ、おらが証人、怒りっぽい人間はみんな早死だてば」

合の手に土瓶の口から冷酒を飲む。もちろん横になったままで、それからげっぷをして、肱枕の腕を替えて、ということは寝返りをうつわけで、こんどは又四郎のほうへ巨大な背中を向けて、欠伸をして続ける。