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ひゃくあしちがい

百足ちがい

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,491 字 · 56 页

青空文庫

「あら、そうすればそれで、お帰りになるんですの」

「――だって、それは、……どうしてですか」

「どうしてって、なにがどうしてですの」

みつ枝は頬を赤くし、愛らしい眼をいっぱいにみひらいて、真正面からしんけんにこちらを見まもった。又四郎は窮した。この種の含みのある言葉のやりとりは、彼には元来がにがてである、それでさりげなく話題を変えようとしたが、女性の敏感でいち早くみつ枝はその先手を打った。

「だってもし貴方が予定どおり帰国なさるおつもりなのでしたら、もうあの話を父か母にして下さっていなければならない筈ですわ」

「あの話、……っていうと、つまり、それは」

「もちろんあの話ですわよ、いやですわ、ご存じのくせに」

こういってみつ枝嬢はもう何割かしら頬を赤くした。又四郎は彼女のほのめかすものがなんであるか、朧ろげに了解し、これは比較的にいって問題が軽くないと思った。しかし彼はまたすぐに、かかるさきくぐりが相手を侮辱するものであることに気づき、非常な勇気をふるい起こして反問した。

「――間違ったら、その、お赦しを願いたいのですが、そのう、ですねえ、今の、……そのお話というのは、つまるところ、縁談のような……」