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ひゃくせん

百銭

宮本 百合子

「不同調」1927(昭和2)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,892 字 · 6 页

青空文庫

「じゃあ、して」

「ほら」

母さえ幾らか打ち興じて、テーブルの上に大きい厚い五十銭銀貨を一枚先頭に置いて次にそれより小さい二十銭の銀貨、ちびな十銭、白銅が二枚、でっくりの二銭銅貨、一銭、あとぞろりとけちな五厘銅貨を並べた。

「ふーむ」

到頭一円を、百銭にしてしまった。

玄関の横に、三畳の茶室があった。茶をする人がいなかったから、永年その部屋はつかわれず、朝夕雨戸のあけたてをするだけだ。一畳が床の間で、古びた横ものが壁と見境のつかない煤けた色でかかっていた。小さい変な台の上に、泥をこねて拵えたような頸長瓶があって、炉のところには竹を集めた蓋がしてある。狭い狭い場所であった。隅に、客間に使う座布団が置いたりしてある。

茶室へは誰も来ない。そこへ入るだけが、もう気分がどきどきする物珍しいことだ。庭に生えている木賊の恰好や色と云い、少しこわいような、秘密なような感情を起させる。積んである座布団に背を靠せて坐り、魔法の占いでもするように、私は例の百銭をとり出す。それを一つずつ、薄すり塵の沈んだ畳の上に並べたり、ぐるりと畳の敷き合わせに沿うて立たせて見たり転したりするのだが、手に握っているうちに銅貨が暖まって来る工合、暖まった金属から発する微かな一種の匂いなど、妙に生きもの的な心持を起させた。