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とうなん
盗難
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,371 字 · 13 页
地面にじかに投げ出されたものの中には、塩瀬の奇麗な紙入だの、歌稿などが、夜露にしめった様にペショペショになってある。
「此那になって居るのを見るのはほんとにいやだ事。一そ一思いに皆持って行って仕舞えば好いのに。
私は、醜い形にされた箪笥だの、泥になった好い物などが、しょぼくない形で散らかって居るのを見ると、ほんとにいや――な心持になった。
今頃は、どっかの屋根の下で、泥棒殿はニヤニヤして居るのだろうと思うと、此那にして大狼狽して居る自分達が、何だか変な心持もした。
「さあ一体どこから入ったんでしょうなあ。
一向跡がありませんなあ。
巡査は、毛虫だらけの雑木の中をくぐって、垣根際まで行ったり、裏門の扉によじ登ったりして見た。
「このトタン塀はのぼれませんがね、
ちと此の門の方がくさい。
一体斯う云う風に横木を細かく打った戸は、風流ではあるが、足がかりが出来ますから、どうしても用心にはよくないですなあ。
私共は、ガヤガヤ云いながら風呂場の前まで行くと、すぐ傍の、隣の地境に、歯抜けになった小階子が掛って居るのを見つけた。
「あ! 階子! 階子がありますよ。
これじゃもう此処から入ったとほか云えませんね。